2007年4月16日月曜日

長編5

「H U M A N I S M」


長門よ、そんな愁いを含んだ瞳で見つめないでくれ・・・。
長門の気持ちは痛いほど理解している。ただその方法はあまり使うべきじゃないんだ・・・。
だとすれば俺に出来ることは一つなんだがね。何故こんな事になっているか遡ってみよう・・・。



今日もまたすっかりお馴染みとなった喫茶店。いつもと同じ面子。そう不思議探索の日である。
言うまでも無いがやはり奢りは俺だ。こればかりは本当に懸念事項だと思うのだが・・・。
爪楊枝によるグループ決め。ここも大事なところである。
ハルヒとペアになった日にはボロボロに引きずり回されるのは明白だ。
古泉とペアなんて楽しくもなんとも無い。出来ればその二人とのペアは避けたいところである。
・・・・・・。結果は俺と長門のペアになった。ある意味一番安全な相手だ。
特に大きな事件も起きずのんびり出来るはずである。
ハルヒはどこか不満げな表情をしていたが恐らく気のせいだろう。
勘定を済ませ店を出て二手に分かれる。「今日も図書館で本でも読むか?」
俺は隣に居る小柄な一目見ただけでは何処にでも居る・・・といえば語弊があるが寡黙な少女(谷口曰くAマイナー)に訊ねる。「いつも同じ所というのも新鮮味に欠ける。今日は他の所に行ってみたい」
思わぬ回答であった。無類の本好きな有機生命体云々が他に行きたいところなど俺には思い浮かばない。「じゃあ、長門は何処へ行ってみたい? 俺は長門に合わせるぞ」
長門ならハルヒと違い突拍子もない所を言ったりはしないだろう。「・・・。街外れに出来たらしい古本屋を一度覗いてみたかった」そんなものが出来ていたのか。
特に興味の無い俺が知るはずも無かったが。
図書館でも古本屋でもあまりすることは変らない気がするのは俺だけだろう。
長門が行きたいというなら大抵のところには付いて行ってやるさ。俺は長門の案内で街外れへと歩き出した・・・。



街外れ。少し街を外れるだけで随分と雰囲気が変るものだ。
その一角に新築のはずなんだが随分前からあったような面影の古本屋があった。
長門は初めて図書館に来た時のような足取りで本屋の奥へと消えていった。
俺はその辺の本棚を適当に流し見た。なるほど。
昔どこかで見たような本が綺麗な状態で並べられている。保存状態はいいようだ。
個人経営でこれだけの保存状態なら良い店といって良いだろう。
特にすることも無く適当に本を読んでは棚に戻しを繰り返しながら店を練り歩く。
そうしていると長門が一冊の本を抱えてこちらに来た。
「掘り出し物を見つけた。この本は前から探していたもの」おお。それは良かったじゃないか。
その割には何処か悲しげな顔をしている。
「ただ・・・。手持ちの資金では少し足りない。情報操作を行いたい。許可を」
・・・・・・・。
こうして冒頭のシーンに至るわけだ。長門の気持ちは分る。
探していたものが見つかってそれが欲しいという思い。俺だって何度も味わった事がある。
長門にだって良い経験になるだろう。だがお金が足りないから。
といってあの反則気味な能力を使うことを俺は良くは思わなかった。便利な能力が有るのはいい。
だがそれに頼りすぎてはいけない。何処かで聞いた覚えがする。
「長門。気持ちは分るがインチキは無しにしよう。何でも便利な能力で片付けてしまうのはお前の為にもならない」
・・・。悲しげな顔・・・。諦めないと駄目?そういった感情を表す悲しげな瞳。
慌ててフォローする。「いや、諦めろとは言ってない。いくらするんだ? 俺も少しなら払うから見せてくれ」長門から差し出された本。その値段を見て俺は驚愕した。
古本とは思えない値段がそこにあった。恐らくかなり貴重な書物なのだろう。
長門が探していたくらいだ。内容も伴っているに違いない。長門の手持ちと俺の手持ち合わせてもギリギリで足りない。かなり困った事になった。
思い切って値切ってみるか?例えそれで成功しても今月の俺の生活費は0になってしまう。
どうするべきか・・・。しばし悩んでいると奥から主人と思しき老人が現れた。
「おぉ~。お前さんら中々良い目をしてるのぉ。その本を手に取るとは若いのに感心な事じゃ」
俺は全く内容を知らないがよほどの本らしい事が分った。
「お嬢ちゃんその本が欲しいのかい? 見た所かなりの本を読んでいるようじゃが?」
・・・。無言で頷く長門。俺は思い切って理由を説明してみた。
いざとなったら生活費は前借でもすればいい。
「そうかその本が欲しいがお金が足りんのか・・・」老人はしばし思考に耽っていたが口を開いた。
「うむ。嬢ちゃんが本が好きなのは目を見れば分る。そんな娘に読んで貰えるならその本も本望じゃろう。特別に只で譲ろう」驚く俺と長門。赤字確定なのではないか?そんな事を考えていると・・・。
「ワシはな。お金が欲しくて本を売っているんじゃないんじゃ。本を読みたい人に本を読ませたいのじゃ。今回は事情もあるし何よりこの娘は本を大切にしている目をしている。なら儲けなぞどうでもいいわ」立派な考えを持っている心優しい人のようだ。
「ありがとうございます。本当に感謝しています」俺は心からの感謝を述べる。
「・・・。ありがとう。一生大事にする・・・」長門も頭を下げ感謝を表している。
「よいよい。その本を大事にしておくれよ」老人に何度もお礼をいいながら俺たちは店を後にした。
「いい人だったな。長門」帰り道に長門に話しかける。
「・・・。とてもいい人だった・・・。優しい人・・・」その瞳には人の心の暖かさを宿していた。
こういう経験を積んで少しずつ人間らしくなっていくのだろうな。
そんな事を思いながら俺たちは二人で帰っていた・・・。

0 件のコメント: