2007年8月2日木曜日

長編15

ちょっとした油断から今俺は病に伏せっている。
何大した事じゃない。つい薄着のまま冷房をかけてそのまま寝てしまったのだ。
所謂夏風邪って奴だろう。夏風邪引くのは馬鹿だけだというが本当に馬鹿なことをしたもんだぜ・・・
そんな訳で折角の夏休みだというのにこうしてベッドで寝転んでいるわけだ。
幸いなのはいつもの不思議探索がしばらく中止になっている事だ。
もし行われているのならアイツの事だ「這ってでも出てきなさい!」とか言う事だろう。
と呑気に語っているが実際結構辛い。
熱は程ほどにあるし、鼻水も出る。早く何とかしたいものだね・・・とその時チャイムが鳴った。
今家には俺一人だ。俺は少しふらつく脚で玄関へと向かった。
そこには……見間違う事の無い「白衣の天使」の衣装を着た長門がいた。
「風邪をひいていると聞きお見舞いに来た。部屋に上がる許可を」淡々と告げる口調。
その格好は何なんだ?とか突っ込みたい所はたくさん有ったが衆目の目に晒すわけにはいかない。
俺は部屋へと案内する。
「あなたはゆっくり寝ていればいい。今栄養食を作ってくる」長門はそう告げると台所へと向かった。
一人になり考えてみるがはっきり言ってその格好は反則だぞ。長門。
ただでさえ白い肌を際立てるかのような白衣。看護帽も良く似合っている。
そして細く美しい脚線美が……って何を考えて居るんだ!俺!
折角看病しに着てくれたのにそんな目で見ちゃ失礼だろう……



程なくして長門は戻ってきた。どうやらおじやを作ってくれたようだ。
長門の手作り料理を食べれるなんて俺は幸せ者かもしれないな……
俺は匙を手に取ろうとした……すると長門は先に匙をとりおじやを掬い……
ふーふー。「あーん」……。ひょっとしてこれは……。
「食べて」
あの、途轍もなく恥ずかしいんですが……。
幸い誰も居ない事だ俺はこの幸せを噛み締める事にした。
長門の特製おじやはとても美味しかった。
何というか体中から体力が沸きあがってくる感じだ。
一体何を入れたんだ?と聞いたところ、「……それは禁則事項」と言われてしまった。
まぁとんでもない物は入ってないだろうから安心だ。
その後も濡れタオルで体を拭いてくれたりと様々な甘いシュチエーションがあったのだが割愛させていただく。
俺と長門との記憶の中だけに留めて置きたいのでね。
両親が帰ってくる前に長門は帰った。夜になるとすっかり熱も下がり健康体になった俺がいた。
本当にあのおじやには何が入っていたんだろうね?
それと今度あったらちゃんと言わなきゃな。「ありがとう、長門」ってな。

2007年7月7日土曜日

長編14

「助けて欲しい」そう書かれたメールが届いた。
相手はあろう事か長門だ。長門が助けて欲しい事など想像がつかない。
相当困った自体なんだろうが何度も長門には助けられている。断る理由なんてないさ。
それに俺たちが力をあわせればどんな問題でも解決できる気がする。
今までだってそうだった。今回もそうだと思ったのだが・・・・・・。

もうすっかり慣れた道のりを飛ばし長門のマンションへ向かう。
肌を通り抜ける夜の風が涼しい。マンションに着き長門の部屋へと向かう。
「俺だ。入るぞ?」確認を取る。「入って」返答を得た俺は部屋に足を入れる。
テーブルに向かい合わせに座る。長門が淹れてくれたお茶を飲む。
俺がお茶を飲んだのを確認したかのように長門は話を切り出した。
「単刀直入に言う。私は記憶を失った」
・・・・・・?は?俺は思わず口を開けてしまった。
「分らないのも無理はない。今の私の記憶に有るのは『長門有希』という名前だけ。これからどうすればいいか困っている」
一体どういうことだ?記憶喪失?長門に限ってそんな・・・・・・。
そうだ、名前しか覚えて無いというならどうして俺を呼んだんだ?
「電話の着信、送信履歴を調べた。その結果あなたの名前が一番多かった。あなたを私は信頼していたという証拠」
参ったね。確かに長門とはよく連絡をしていた。信頼関係・・・・・・。
無かったと言えば嘘になる。それにしても・・・・・・。
「記憶がないって言うが本当に何も覚えてないのか?
今からちょっと確認してみるがいいか?」お前はナントカ思念体に作られたんだよな?「・・・・・・」
お前はSOS団とかいう変な団体の一員だよな?「・・・・・・」


他にもSOS団が関わった事件の事を聞いてみたが全滅だった。何も覚えていない。
どうやら事実らしい。尤も長門は嘘なんてつかないだろうが・・・・・・。
「幸い知識などは失っていない。学校生活は明日からも送れる」そうか・・・・・。
それはいいとしても。SOS団に顔を出すのは不味いな。ハルヒが何をしでかすか分ったもんじゃない。取りあえず明日古泉辺りにでも相談する事にするか。
明日は授業が終わったら家に帰ってじっとしてればいいことを伝えると長門は静かに頷いた。
その顔からは最近になって読み取れるようになった感情が消えていた。
本当に忘れてしまったのか・・・・・・?その日は取りあえず解散となった。
明日から一体どうなっちまうんだ?俺はハルヒに長門が活動に出られない理由を考えながら次の日を迎える事になった。



翌日。日課となったハイキングコースも慣れたものだ。
クラスに着き自分の席に座ると早速ハルヒに絡まれた。「キョン! 悪いんだけどSOS団の活動は私暫く出られないから!私がいなくてもしっかりやりなさいよ!」
そりゃ好都合だ。長門が出れない言い訳を考える手間が省けたぜ。
という事は古泉、朝比奈さん、俺の三人か・・・・・・。何かいいアイディアが見つかればいいんだが。

放課後の部室。朝比奈さんの生着替えを目撃しないようにノック。
中から「ど~ぞ~」と声が返ってくる。俺は安心感を覚え部室へ踏み入る。
中には既に二人が揃っていた。早速古泉に事情を説明してみるか。

「ふむ、長門さんが記憶喪失ですか。困ったものですね」ああ本当だぜ。
名前以外覚えていないとか相当なものだぜ。「何が原因なのか分りませんが即急に記憶を取り戻させるべきですね」
お前の機関の力で何とかならないのか?
「機関といっても万能じゃありません。普通の人間の記憶喪失なら兎も角長門さんの場合は・・・・・・」
お手上げかよ・・・・・・。「取りあえず涼宮さんが暫く来れない内になんとかしなければなりませんね」同感だな。取りあえず今日も長門に会いに行くか・・・・・・。

再び長門の部屋に入った俺は古泉と話したが無駄だった事を告げてみた。
「・・・・・・古泉って誰?」ああ、そうか今の長門には分らないか。軽く説明してやる事にする。
ニヤケ面はいけ好かないが頼りになる奴さ。
説明し終わった後、長門は突然俺の腕にしがみ付いて来た。「ど、どうしたんだ長門!」
「私は怖い・・・・・・これ以上忘れてしまいそうなのが怖い・・・・・・貴方は最後まで側に居てくれる?」
半分涙目になって黒真珠のように輝く瞳で俺を見つめている。
「大丈夫だ。俺は何があっても側にいる。それにこれ以上忘れると決まったわけじゃない。きっと記憶は戻る。だから泣かないでくれ」そう言うと安心したのか俺から少し離れた。
静かになった部屋にチャイムの音が響いた。
?一体誰だ?俺は覗いて見た。そこに居たのは・・・・・・。



「長門」と「俺」だった。何が起きている?
というか誰だ?俺達はここに居る。じゃあ目の前の「俺達」は?
頭の思考をフル回転させていると声を発した。
「あー。ひょっとしたら見当がつくかも知れんが・・・・・・俺たちは未来からやってきた。伝えなきゃならん事がある」なるほど・・・・・そういうことか。
俺は長門に事情を説明し「二人」を部屋に上げた。
「ズバリ、長門の事で困ってるんだろ?」ああ、その通りなんだ。
「その原因なんだがな・・・・・・長門説明してやってくれ」「長門」が口を開く。
「過去の私が記憶を失ったのは『エラー』が原因。その原因は・・・・・・貴方」
何だって?俺が原因?俺が何をした?
「貴方は忘れている。私と最後に交わした会話を」忘れている?俺が?何を・・・・・・?
そもそも記憶を失う前の長門と最後に会話したのは何時だ?
頭の中に靄がかかってるかのように思い出せない。
「貴方にはそれを思い出してもらうため私達はやってきた」
「という訳なんだ。よく分からないかもしれないが事実なんだ」
ちょっと質問なんだがそっちの「長門」は記憶はあるんだよな?
なら、ここで俺が何かをすれば記憶は戻るんだな?「・・・・・・戻る。その方法は・・・・・・」



さて、俺はその方法を実行する為に数日前に飛ばされたわけだ。
まさか過去に来る事になるとは思わなかったが・・・・・・。
未来の長門は時空遡行も出来るようになったんだな。
にしても俺のあの一言が原因だったんだな・・・・・・。たった一言で随分苦しめちまったんだな。
元に戻ったら謝るぜ。俺は時間を計り電話をする。
「長門か?意味が分らないかもしれないが聞いてくれ。この後俺から電話があって俺はお前に俺の願望を言うはずだ。それは忘れてしまって良い。抱え込む必要はないんだ。未来から来た俺の伝言だ。分ってくれたか?」
「分った・・・・・・」と呟いたのを確認すると俺は安心する。別れを告げると俺は元の日に戻った。
そこには記憶が戻った・・・・・・。というより記憶を失ってない長門がいた。
こうして俺が引き金となった事件は幕を閉じた。
俺が何を言ったかって?「もう一度消失の時の様な笑顔が見たい」って言ってしまったのさ。
それが処理できないエラーになったそうだ。詳しい事は分らない。
俺はありのままの長門を愛する事にする。それだけだ。

2007年6月20日水曜日

長編13

徹夜

今日は体調が悪い……。
普段なら睡眠時に体のメンテナンスを行うはずが 昨日は読書に夢中になり徹夜をしてしまった。
……迂闊。 休むという選択肢もあるが休むと彼にいらぬ心配をかける。
頑張って登校する事にする。
学校前の坂道。 彼が辛いといっていた気持ちが今日は分る。 必死に長い坂を登る。
もうちょっと……あと少し…… 次の瞬間 目の前が真っ白になった。


どうやら私は倒れてしまったらしい。 私は保健室のベッドに横たわっていた。
「お、気づいたか。よかったぜ」 私は自分の感覚情報を疑った。 確かに彼が居た。
「まだ頭すっきりしないのか?ボーッとしてるが?」 彼が心配している。何か答えなくては。
「大丈夫、心配しないで。もう平気」 私は上半身を起き上がらせる。
「びっくりしたぜ。坂道で声をかけようとしたら行き成り倒れるから……」
やはり私は倒れてしまったよう。
「慌てて保健室まで担ぎ込んだんだ。中々目を覚まさないもんだから心配したぞ。何かあったのか?」 ちょっと恥ずかしいが正直に話す事にする。 彼に嘘はつきたくない。
「なるほどな。長門らしいというか……いやいい意味でな。 でも出来ればこれからはもっと気をつけてくれよ?俺凄く心配したんだからな」 私は頷く。
そしてやっと気づいた太陽が傾きかけてる事に。
「もしかして授業……」 「あー。長門が心配な余り忘れてたぜ……まぁ気にするな」
とても嬉しい。私が起きるまで側にいてくれた。 それだけで幸せ。
「どうした?嬉しそうだが」 顔に出てしまったよう。迂闊。
「……何でもない」 彼は心配だからという理由で家まで付いてきてくれた。
たまには体調の悪いのもいいかもしれない。 そう思えた。

2007年5月9日水曜日

長編12

勿忘草の想い


あの事件から一年。私の中のエラーが原因で引き起こされてしまった事件……
解決後彼は言ってくれた。「お前が居なくなったら何としてでも取り戻しにいく」
私はとても嬉しかった……迷惑をかけてしまった私を。彼は必要としてくれた。
あれからの一年様々な事があった。私が居なくなることは無く比較的穏やかに過ぎた日々。
これからもそんな日々が続いていく……そう思っていた。あの指令が来るまでは……
今日も私は部室に一番で入る。最早これは当たり前と化した光景。
私は彼を待っていた。告げなくてはいけない事がある……
暫く時が流れ、響くノックの音。無言で答える私。これも日常。
入ってきた彼に視線を移す。「長門だけか……」
私は指定席から立ち上がると彼に手渡した。「……貸す」少し驚いている彼。
「……忘れないで」そう告げて私は元の場所に戻った。
これでいい。これでいいの……そう言い聞かせて。


その日は特に変った事も無く活動が終わった。しいて言うなら長門から本を借りた事ぐらいか。
どこか様子がおかしかった気がするが。
特にする事も無かった夜。俺は本を少しずつ読み始めた。
……。ある程度読み進めたとき本から栞が落ちた。俺はそれを拾うと気付いた。
「勿忘草か」その栞には勿忘草が印されていた。
イメージ的に長門にはぴったりな花だ。あいつもこうゆうのに興味があったんだな。
そんな事を思うと俺は今日の読書を終え眠りに付いた……。


その夜私は最後となる任務を遂行しようとしていた。
内容は彼の記憶からの私の消去。指令を受け取った時は何故?という想いが過ぎった。
回避はできないのか?拒否はできないのか?
私の想いは思念体には届かなかった・・・。
私に出来た事は彼にせめて忘れないで欲しいという想いを告げるだけ。
……。楽しかった思い出が胸を過ぎる。
私はこみ上げる想いを押し込め……最後の情報操作をした……

あくる日通学路で彼を見つける。胸が痛い……この想いは何なんだろう……
「おはよう。キョン」後ろから彼を呼ぶ声。彼が振り向きこちらを見る。
彼は私には気付かず……「国木田か。珍しいな」彼は友人と合流しまた通学路を進む。
私は……

日の暮れた放課後、私は部室へと向かう。恐らくもう誰も居ないであろうその部屋へと。
部室の前に来た時ドアから明かりが漏れている事に気付く。
私は一瞬彼が居る光景を思い浮かべ勢い良くドアを開けた。
・・・・・・。分っていた。彼が居るはずは無いと。さっきのはノイズ……
部室に居たのは 喜緑江美里だった。「もしかして彼かと思いました?」
「スキャンすれば誰が居るかは分る。貴方に用は無い」
そう告げ指定席へと向かおうとした時……腕をつかまれ抱きしめられた。
「ここなら人目は無いし好きにすればいいのよ」その言葉で私は堪えていたものを抑えきれなくなった。彼への想い。本当に告げたかった私の想い。
私は泣いていた。こんなに心が痛いなんて……
こんなに彼のことが……好きだったなんて……

2007年5月3日木曜日

長編11

「ルービックキューブ」


あーでもない。こーでもない。俺は脳細胞をフル動員して考えていた。
何をかって?大したもんじゃない一時期流行った「ルービックキューブ」って奴だ。
昨日の夜引き出しの奥から転がり出てきて懐かしさの余り始めたんだが一向に完成しない。
今日も一番乗りで部室に来て弄ってる訳だ。
こういうのも頭のよさが関係するのかと軽く凹まされていると・・・。
背後に気配・・・。長門か。驚かせるなよ・・・。
長門は興味深そうに俺の手の中の立方体を見つめていた。俺は簡単にルールを教えてやった。「・・・。理解。極めて原始的だが理論も含まれている」
そう言って俺の手からキューブを奪うと・・・。
暫く考えた様子だったがやがて俺の手を動かす速度の三倍速ぐらいで回し始めた。
呆気に取られていると・・・。「・・・。完成・・・。少し手こずったが許容範囲」
涼しげに俺に差し出す。インチキとかしてませんよね・・・?
「・・・。そんなことをしなくても十分に出来る。貴方にもやり方を教える」
そう言って俺は手ほどきされながら解き方を教わった。長門の手って柔らかいんだな・・・。
理解するまでは結構かかったが長門は詳しく優しく教えてくれた。
教師とか向いてるんじゃないか?って思ったぐらいだ。
やっと自力で解けるようになった頃にはもう夕方だった。
「助かったぜ。ありがとうな長門」
「・・・別にいい・・・」どこか嬉しそうに見えたのは俺の気のせいだったのかな。
部室を二人で出ると・・・。鬼の顔をした団長が居た。
「随分とお楽しみだったようね・・・」天国の後に地獄あり。俺はそれを噛み締めた。

2007年4月22日日曜日

長編10

「彼女のわがまま」


「明日は皆でお花見ハイキングよ!」
頭の中に年中満開の桜が咲いているのではないか?
と疑いたくなる女。涼宮ハルヒは叫んだ。コイツが言い出したら最後必ず従わなければならない。
まぁ季節がら悪くも無いだろう・・・。それに朝比奈さんのお弁当を食べられるやもしれん。
それならば多少の苦労はしてやるさ・・・。こうして週末に山登り+お花見が実行に移された・・・。
駅前に集合時間の十五分前には着いたはずなのだがやはり俺が最下位であり、
最寄の駅までの切符代を支払う羽目になった。いい加減財布がきついんだがな・・・。
電車に揺られる事数駅。ここからは歩きだな。
・・・・・・。目的の山。登山口は二つあった。
「ここでくじ引きよ! 二つに分かれて昇りましょう! 行きと帰りは同じグループだけど反対の道から帰ることで山の風景を全て楽しむのよ!」
よく分からない理論だが反論しても聞く耳を持つ奴じゃない。
俺は心から願った。ハルヒとペアにだけはなりたくない。
古泉?言うまでも無いだろう?
結果。俺は長門とペアになった。
長門のほうを見ると・・・。「・・・・・・」いつもの三転リーダーだ。
山登りする時でも制服なんだな。ハルヒは何処か不満げな表情だったが俺たちは二手に分かれ山を登りだした・・・。



山の中。決して険しくは無い。登校時のハイキングコースで慣れたせいか思ったよりも楽だ。
長門は俺の少し後ろを歩いて着いてきている。
コイツも疲れては居ないようだ。景色はというと所々に咲いている桜が美しい。
頂上はもっときれいなんだろうな・・・。そんな事を考えていると・・・。
後ろで人の倒れる音。振り返ると長門が倒れていた。
「長門! 大丈夫か!」慌てて駆け寄る。
「・・・。迂闊。足を滑らせた・・・」
「足大丈夫か?歩けるのか?」
「・・・。足を捻ってしまった様・・・。貴方の力を借りたい。許可を」
・・・・・・。真っ直ぐに俺を見つめる漆黒の瞳・・・。
そんな目で見られたら断れないじゃないか・・・。
「具体的にはどうすればいいんだ? 背中は荷物があるぞ?」
長門は少し恥ずかしそうに言った。「・・・。俗に言うお姫様抱っこ・・・」
その発想は無かった。というかそんな事をしていいのか。
嫌では・・・ないんだろうな。俺は覚悟を決め長門を抱いた。
荷物の分の重みを含めてもそんなに重くは無い小柄な体・・・。
抱き心地はいい・・・。
・・・って何を考えているんだ!取りあえず長門を抱きしめ残りの山道を登った・・・。
想像はつくだろうが俺たちが頂上に着いた時にはハルヒ達は既に到着しており。
長門を抱いて登場した俺はハルヒに尋問された。
事情を説明したが何分長門が俺から降りると平気で歩いていたので弁解の余地なく殴られた。
長門さん足駄目だったんじゃないですか・・・?
その後は昼食タイムとなり絶景を眺めながら美味しい弁当に舌鼓を打った。
帰り際・・・。古泉がこう言った。「貴方の分の荷物をもって帰ってあげますよ。その方が長門さんも喜ぶでしょう」意味不明なことを言って俺から荷物を受け取ると不機嫌なままのハルヒ達と帰って行った。「長門。 歩けるんなら俺たちも帰ろ・・・」
長門は俺の目を見てこう言いやがった。
「帰りは・・・おんぶで・・・」
やれやれ・・・。古泉が言ったのはこういう事か・・・。
俺はわがままなお姫様に付き合うことにした。決して嫌じゃないしな。

長編9

「静止した闇の中で」
長門が夜に行き成り「会いたい」って電話してきた。
断る理由なんて無い。しかし夜に会いたい何ていわれると・・・。
おっと。妄想が走ってしまった。いかん。いかん。
取りあえず長門のマンションへと向かう。もう慣れたもので直に708号室の前だ。
「長門、入るぞー」「・・・入って」お言葉に甘えるとする。
玄関先で俺を向かえたのはいつもと同じ制服姿の長門だ。
ある意味落ち着く。コイツが下手に着飾ったりされた日には俺の理性がどうにかなってしまう。
取りあえず部屋に上がった俺。「用件は何だ? 何か事件か?」
万が一という事もある。予め心の準備は必要である。
「・・・。用件というほどの事ではない。貴方とゆっくりと話してみたい」
・・・・・・。つい良い方向へ考えてしまう・・・。ゆっくり話したい・・・。まるで恋人同士じゃないか。
悪く無いかもな・・・。って何を考えてるんだ。長門がそんな事を考えてるはず無いじゃないか・・・。
話したい。そう言った割には話題が無いのか長門からは話しかけてこない。
仕方なく俺から当たり障りの無い話題を振る。と、その時。部屋に暗闇が訪れた。
「停電か・・・」急な事に驚く俺。だが本当に驚くのはこれからだった・・・。



まず突然手に触れる優しい感触・・・。長門の手だ。小さくてだが確かな温もりを感じる・・・。
俺の手をぎゅっと握ってくる。ひょっとして怖いのだろうか?
「長門?」次には俺の肩に寄りかかってくる・・・。肩に感じる重み・・・。そしてほのかないい香り・・・
。だんだん理性がおかしくなってくる・・・。
「長門? 怖いのか? だんだん俺に近づいてきているようだが・・・」
だんだん暗闇に慣れ薄っすらと見えてきた。
・・・・・・。目の前に目を閉じた長門の顔があった。
ひょっとしてこれは・・・。「キスして」ですか?
いや、まてこんな暗闇に乗じて勢いだけでそんな事をしては・・・。
それより何で長門はさっきから黙っているんだ?俺に何をして欲しいんだ・・・。
俺と長門は暫く見つめ合い・・・(長門は目を閉じているが)
どのくらいそうしていただろうか。暗い部屋で密着。
目の前で目を瞑り待ち続け一言も話さない長門。
俺の精神はもう限界に近かった・・・。
突然目に差し込む光・・・。思わず目を閉じてしまった。・・・・・。
明るさになれ目を開けると・・・。長門は元の位置に戻っていた。
・・・・・・。何処か怒っているように見えるのは気のせいだろうか?
時計を見るともういい時間だった。「悪い、長門。 そろそろ帰らないと・・・。今度またゆっくり話そう」「・・・。そう。気をつけて」
俺は長門に見送られマンションを後にした・・・。








結果。
作戦は失敗に終わった。二人きりの状況を作り出し意図的に停電を起こす。
その状況で徐々に近づき目の前に迫る。それでも彼は何もしなかった。
何も出来なかったのかは分らない。
結論。
彼は思ったより意気地なし・・・。
ちょっと残念。今度はもっと上手くやってみよう。